木内 謙一郎
慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 専任講師
略歴
平成18年(2006年) 慶應義塾大学医学部卒業
平成20年(2008年) 横浜市立市民病院初期臨床研修修了
平成23年(2011年) 慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了
平成25年(2013年) カリフォルニア大学アーバイン校Center for Epigenetics and Metabolism 研究員 (Paolo Sassone-Corsi研究室)
平成30年(2018年) 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 特任助教
令和2年(2020年) 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 助教
令和4年(2022年) 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科 専任講師
システム生物学による内分泌代謝リズムの総体的な理解を目指して
この度は、永井良三賞という身に余る賞を授与頂き、心より感謝申し上げます。
内分泌学における重要な概念の一つとして、臓器間ネットワークによる恒常性の維持がございます。概日リズムは主に生体時計によって駆動される、約24時間周期の持続的な振動です。生体時計は光や食事などの環境因子に同調しながら、昼夜の変化に対して予見的に代謝、生理、行動などの広範な機能を調節する、恒常性を維持するための適応機構と考えられています。哺乳類の生体時計は階層構造を取っており、視床下部に存在する中枢時計は光に同期し、内分泌ホルモンなどの液性因子や神経因子を介して臓器の末梢時計を同調します。近年の網羅的解析技術の進歩により、概日リズムが時計遺伝子のみならず、非常に多くの遺伝子、タンパク質、代謝産物、更にはRNAプロセシング、タンパク質の翻訳後修飾、クロマチン構造といった分子細胞生物学的な現象にも認められることが明らかとなりました。私共はRNA-seq、メタボローム、ChIP-seqといった網羅的な解析を組み合わせることで、食事や空腹が臓器の概日リズムに与える影響や、概日リズムを介した協調的臓器間ネットワークの基盤を探索する検討を行って参りました。これまでの研究から、生体においてある臓器の固有の概日時計がその臓器において自律的に制御する遺伝子や代謝産物の日内変動は限定的である一方で、中枢時計や遠隔臓器の時計に由来する周期的なシグナルの影響が大きく、臓器連関における概日リズムの重要性が示唆されています。
本講演では、システム生物学のアプローチによる、臓器レベルでの内分泌代謝リズムの総体的な理解に向けた私共の取り組みについて紹介させて頂きます。