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10月11日 発表分

小杉将太郎 慶應義塾大学医学部 腎臓内分泌代謝内科  

 血管内皮NAMPT-NAD+合成系のインスリン抵抗性および血圧制御における役割の検討

竹下 ひかり 大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学

 アルツハイマー病による認知フレイルの病態機序の解明を目的とした基礎的検討

塚本俊一郎 横浜市立大学 医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学 

 免疫細胞ATRAPは食事誘発性肥満の発症・進展に関与する

血管内皮NAMPT-NAD⁺合成系のインスリン抵抗性および血圧制御における役割の検討

小杉将太郎

慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科

哺乳類NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide)合成系の鍵酵素であるNAMPT(nicotinamide phosphoribosyltransferase)は環境・栄養状態に応答することでNAD+量を調節し, 生物学的に様々な局面で重要な役割を果たす. 本研究では, 血管内皮NAMPT-NAD+合成系の, 全身のインスリン抵抗性および血圧制御における役割を検証した. 血管内皮細胞特異的にNamptを欠損した(Vascular Endothelial cell-specific Nampt Knockout : VeNKO)マウスを作成し, 高脂肪食投与下での表現型を評価した. VeNKO雄マウスではその対照群(flox/flox: fl/fl)と比較し, インスリン抵抗性(インスリン耐性試験:AUC fl/fl, 7865.6±684.1 mg/dl*min vs VeNKO 10577.1±598.8 mg/dl*min; n=7-12 per group, p<0.05)と血圧上昇 (収縮期血圧:fl/fl, 107±5.2 mmHg vs VeNKO, 134±6.3 mmHg; n=5-6 per group, P<0.01. 拡張期血圧: fl/fl, 56±3.2 mmHg vs VeNKO, 66±2.4 mmHg; n=4-6 per group, P<0.05)を呈した. その背景メカニズムとして, VeNKOマウスでは内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性低下を認めた. さらにVeNKOマウスでは皮下脂肪で血管密度が低下し, 皮下脂肪重量の低下に伴い血中アディポネクチン濃度が低下しており(fl/fl, 8180.9±448.9 ng/ml vs VeNKO 6738.8±376.3 ng/ml; n=7-8 per group, p<0.05), これがインスリン抵抗性を惹起した一因の可能性がある. NAD+の中間代謝産物nicotinamide mononcleotide(NMN)を, 高脂肪食を与えたVeNKOマウスに投与したところこれらの表現型は改善した. 血管内皮細胞NAMPT-NAD+合成系の内皮細胞機能や血管新生に関する作用のさらなる検討のために, ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)にNAMPT特異的阻害剤であるFK866を投与したところeNOS活性の低下を認め, この変化はNMNの投与により回復した. さらにFK866を投与したHUVECsでは血管新生能の指標である管腔形成が阻害され, NMNの投与でこの変化は回復した. しかし, FK866とNMNに加えて, NOS阻害剤であるNG-nitro-L-arginine methylester (L-NAME)を投与すると管腔形成は阻害されたままだった. 以上の結果から, 血管内皮細胞NAMPT-NAD+合成系は,eNOS活性の調節を介して直接的に血圧を制御しているだけでなく血管新生能も制御し, 特に皮下脂肪での血管新生能を制御することで全身のインスリン抵抗性をコントロールしている可能性を考えた. つまり, これらの結果は血管内皮細胞NAMPT-NAD+合成系の, インスリン抵抗性および血圧制御における重要性を示しており, NMN経口投与は肥満に合併する高血圧およびインスリン抵抗性の改善に寄与する可能性が示唆された. 

アルツハイマー病による認知フレイルの病態機序の解明を目的とした基礎的検討

竹下ひかり 1)3), 山本浩一 1), 武田朱公 2), 伊藤祐規 2), 楽木宏実 1)

1) 大阪大学大学院医学系研究科 老年・総合内科学
2) 大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学
3) 森ノ宮医療大学 医療技術学部 臨床検査学科

 

【目的】
身体的フレイルを有する高齢者が軽度認知機能障害(MCI)を発症しやすいことから、両者を合併する病態は認知フレイル(Cognitive frailty, CF)として定義されている。この CF の概念は、認知症の前駆段階においても身体機能障害が顕在化する可能性を示唆しており、CF の病態機序の解明は認知症予防の観点からも非常に有用である。我々は認知機能障害の最大の原因疾患であるアルツハイマー病(AD)に注目し、AD の前駆段階としての認知フレイルの病態機序を解明することを目的に、AD モデルマウスを用いて認知機能と筋力を評価し、双方の関係性について検討を行った。
【方法】
本検討で用いた AD モデルマウスは、脳神経特異的ヒト変異 APP 過剰発現マウスである APP23 マウスである。この APP23 マウスと同腹仔の野生型マウスの雄に対して 3 ヶ月齢で骨格筋機能と認知機能評価を行った。骨格筋機能評価として握力測定、認知機能評価として Passive avoidance test、Open field test、そして筋力と認知機能両者に関連する因子として 24 時間随意運動量を測定した。これらの検討の後に解剖し、骨格筋を中心とした各種臓器を採取し重量の比較を行った。
【成績】
APP23 マウスの握力、そして一部の骨格筋重量は野生型マウスに比べ低値であった。Passive avoidance test と Open field test の結果は Genotype 間で有意な差を認めなかった。随意運動量はAPP23 マウスで野生型マウスに比較して有意に多かった。
【結論】
本検討の結果より、APP23 マウスでは認知機能障害の初期段階において既に骨格筋障害が顕在化していることが示唆された。また、APP23 マウスでは随意運動の増加という、本来であれば骨格筋機能増強に寄与する行動異常を認めたものの、骨格筋機能はむしろ低下していたことから、AD 病態が骨格筋機能に及ぼす影響には認知機能障害による行動異常に非依存的な、骨格筋そのものへの影響の存在が示唆された。

免疫細胞ATRAPは食事誘発性肥満の発症・進展に関与する

塚本俊一郎(1)、鈴木徹(1)、小豆島健護(1)、涌井広道(1)、奥田博史(2)、田村智彦(2)、田村功一(1)

1) 横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学

2) 横浜市立大学医学部 免疫学

 

肥満の形成、進展には多くの免疫細胞の関与が報告されているが、両者のクロストークは未解明の部分も多い。我々はこれまで心臓、腎臓、脂肪組織などの各臓器に発現するアンジオテンシンII 1型受容体関連蛋白(ATRAP)の発現異常が高血圧や糖尿病、肥満病態などの発症・進展と関連することを報告してきた。さらに、最近、免疫細胞ATRAPが炎症やマクロファージ極性に関与する可能性を明らかにした(Kidney Int, 2022、Atherosclerosis, 2018)。しかし、肥満病態における免疫細胞ATRAPの機能的役割は不明であり、今回、肥満病態の発症における免疫細胞ATRAPの病態生理学的意義についての検討を行なった。

野生型マウスに対する3週間の高脂肪食(HFD)負荷により、通常食と比べて体重増加とともに循環免疫細胞のATRAP発現が増加することが明らかになった。次に、HFDにより増加する循環免疫細胞ATRAPの意義を調べるため、野生型マウスに放射線照射後、野生型もしくはATRAPノックアウト(KO)マウスの骨髄を移植したキメラマウス(骨髄ATRAP KOキメラマウス: BM-KOマウス、および骨髄野生型キメラマウス: BM-WTマウス)を作成した。これらBM-KOマウスとBM-WTマウスに対する8週間のHFD負荷により、BM-KOマウスではBM-WTマウスと比較し、体重増加と内臓脂肪重量の増加が有意に抑制された。また、BM-KOマウスでは、BM-WTマウスと比較してHFD負荷による耐糖能障害やインスリン抵抗性の改善が認められ、これらはBM-KOマウスにおける脂肪細胞肥大抑制、小型脂肪細胞数増加、および脂肪組織GLUT-4・UCP-1など代謝・エネルギー産生改善に関連する遺伝子発現増加と関連していた。脂肪組織をより詳細に分析したところ、BM-KOマウスではHFDによる脂肪組織マクロファージ(ATM)増加が抑制されており、特にM2マクロファージがBM-WTマウスと比較して有意に減少していた。また、M2マクロファージに関連するTGF-βおよびその下流(p15, p16, p21)シグナルもBM-KOマウスの脂肪組織において抑制されていた。TGF-βシグナルの亢進が肥満や脂肪細胞の肥大をきたすことがわかっており、免疫細胞ATRAP発現低下に伴ったTGF-βシグナルの抑制がBM-KOマウスにおける高脂肪食誘発性肥満病態の改善に寄与している可能性が示された。さらに、単球の網羅的解析によってBM-KOマウスの単球ではBM-WTと比較してインターフェロンγレスポンスなどM2マクロファージへの極性転換抑制に関連する遺伝子群の発現増加を認めた。つまり、BM-KOマウスの単球レベルでの遺伝子発現の変化が、ATMの極性に影響を与え、TGF-βシグナルの抑制を介して最終的に抗肥満作用を発揮したと考えられた。本研究の結果は、免疫細胞ATRAPが肥満病態の発症、進展に重要な役割を果たしており、肥満の病態解明や新たな治療アプローチ開発の標的となり得ることを示した。

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