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環境シグナル感知とエピゲノム機構による脂肪組織熱産生と抗肥満機構の解明
高橋宙大
東北大学大学院 医学系研究科 分子代謝生理学分野
生活様式の変化に伴い肥満を基盤とした 2 型糖尿病、脂質異常症、動脈硬化など生活習慣病が蔓延し、予防・治療法の開発が喫緊の課題である。脂肪細胞は代謝に重要な役割を担い、その生理機能の破綻が原因で生活習慣病を引き起こす機構が注目されている。脂肪組織には、主にエネルギー貯蔵を担い、熱産生能を持たない白色脂肪組織と、寒冷環境下で熱を産生する褐色やベージュ
脂肪細胞がある。ベージュ脂肪細胞は白色脂肪中に長期寒冷
下誘導される熱産生脂肪細胞で(図 1)後天的に誘導されるこ
とから肥満、生活習慣病の治療戦略として注目されている。
我々はヒストン脱メチル化酵素 JMJD1A が寒冷環境を自身の
リン酸化を介して感知し(第一段階)、後に熱産生遺伝子座の
転写抑制性ヒストン修飾を消去する(第二段階)連続したステップを介しベージュ化誘導することを報告してきた。しかし人為的に第一段階のリン酸化を活性化し第二段階のJMJD1A によるエピゲノム書き換えを誘導、ベージュ化を促進させることは困難であった。本研究では寒冷感知に重要な JMJD1A リン酸化に着目し、プロテオーム解析から JMJD1A リン酸化の負の調節因子として MYPT1(調節サブユニット)と PP1β(触媒サブユニット)脱リン酸化酵素複合体を特定した。この脱リン酸化酵素
の活性を阻害する寒冷誘導性リン酸化部位を特定し、リン酸
化による MYPT1 機能抑制がJMJD1A リン酸化の安定化を介
しエピゲノム書き換えを誘導、ベージュ化が促進することを
見出した。また脂肪組織特異的 MYPT1 欠損によりベージュ
化が誘導され、食事性肥満や糖代謝異常の改善が認められた。
加えて MYPT1-PP1β はミオシン軽鎖を脱リン酸化し YAP/TA
Z転写共役因子を介した転写活性化を抑制することを見出し、
寒冷刺激によるエピゲノム変化と転写共役因子を介した協奏
的な熱産生遺伝子活性化機構を解明した(Takahashi et al,.
NatCommun, 13(1):5715. 2022)。
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