JuLY 12 th Key Note Lecture
演者紹介・抄録
アドレノメデュリン-RAMP2、RAMP3システムの機能分化とがん転移の制御への展開
信州大学医学部 循環病態学教室
田中 愛
分子標的薬や癌免疫療法などの新規治療の登場により癌治療は大きな進歩を遂げたが、未だ癌の転移を抑制する方法は皆無である。我々は、癌を生体から切り離すのではなく、原発巣と転移巣、および両者をつなぐ脈管系の観点から捉えることによって、癌転移を抑制する治療法につながる可能性を考えた。我々はこれまで、循環調節ペプチドとして捉えられてきたアドレノメデュリン(AM)が、血管、リンパ管の恒常性維持そのものに必須であることを明らかとしてきた。AMの機能は主として、AM受容体に結合する受容体活性調節タンパク、RAMP2あるいはRAMP3によって制御されている。
誘導型血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウト (DI-E-RAMP2-/-)マウスを用いて、B16メラノーマ細胞の皮下移植による原発巣切除後の自然肺転移モデルの検討を行うと、DI-E-RAMP2-/-マウスでは転移が亢進する結果が得られた。DI-E-RAMP2-/-マウスでは、血管のRAMP2欠損誘導後、血管の障害に伴う炎症を生じ、結果として癌が転移しやすい環境=転移前土壌の形成につながることが明らかとなった。一方、血管内皮細胞特異的RAMP2過剰発現マウスでは、逆に転移は抑制され、生存率が改善することが確認された。
次に、PAN02膵癌細胞を用いて臓器間転移におけるRAMPの役割を検討した。DI-E-RAMP2-/-マウスでは、メラノーマの実験と同様に転移が亢進した。一方でRAMP3ノックアウト(RAMP3-/-)マウスでは、DI-E-RAMP2-/-マウスとは逆に、転移が抑制される結果となった。RAMP3遺伝子を欠損したE0771乳癌細胞 (RAMP3-/-細胞)を樹立し、野生型マウスに皮下移植を行うと、腫瘍増殖は抑制された。RAMP3-/-細胞移植群では、悪性の癌関連線維芽細胞(CAF)のマーカーであるSM22αの発現が低下する一方で、良性CAFのマーカーであるMeflinの発現は亢進していた。さらにRAMP3-/-マウスに対してRAMP3-/-細胞を移植すると、生存率が著明に改善することが確認された。
本発表では、AM-RAMP2システムによる血管の恒常性制御機構と、AM-RAMP3システムによるCAFの制御機構に注目し、両者を標的とした癌転移抑制法の可能性について報告したい。
略歴
2010年 東京理科大学 理学部 卒業
2012~2016年 信州大学大学院医学系研究科疾患予防医科学系専攻博士課程
2013~2016年 日本学術振興会特別研究員 DC1
2016年 博士(医学)取得
2018年 日本学術振興会特別研究員
2021年 日本学術振興会特別研究員 RPD